第3編 発明者特定の厳格化の必要性

 第2編では現行法下はもとより、改正提案の下においても企業に職務発明規程を置くこと自体の重要な意味を述べました。

 以下の第3篇では、職務発明規程を置いて、社員による発明のインセンティブを規定する上では、発明者の特定を厳格に行わなければならず、この点の必要性が、改正提案の下においてはより大きなものとなることを述べます。

 以下の表をご覧ください。甲という企業(甲社)の社員A、B及びCの三名が共同で職務発明を生み出したとします。ところが、甲社の経営者や管理職が発明者の特定をきちんと行わず、この職務発明について甲社が特許出願を行ったときには、AとBの名前だけが発明者として願書に記載されて、なぜかCの名前は記載されなかったとします。すなわち、甲社によってCは発明者と認められなかったとします。












_このとき、現行法の下では甲社はCが真に有している特許を受ける権利の持分(33%)を承継しないままに特許出願を行ったのですから、この33%を承継しない甲社の行った出願は冒認出願です。よって拒絶理由、無効理由が存在します。しかし、改正提案に従うときは、特許を受ける権利が最初から甲社に帰属していますから、上で述べたような未承継は生じず、拒絶理由、無効理由は存在しません。

 従って、今回の改正提案に従うとき、仮に企業が社員Cのような真の共同発明者による寄与を見落としたとしても特許権じたいに瑕疵はなく、Cには然るべき「インセンティブ」が付与されないという不公平だけが残ります。当然、このような不公平な扱いの増えることを今回の法改正が良しとする訳はなく、企業には、より厳格な発明者の特定を自発的に行うことが求められます。

 さらには、上のケースとは逆に社員の一人(E)が真の発明者でないにもかかわらず発明者として扱われた場合を次の表に示します。このときの特許権には、現行法下(日本法)においても瑕疵がありません。













_これらをいいことに、もし企業が、発明者の不適切な認定を見て見ぬふりをするようなことがあれば、社員の不満は募り、法改正の意図に反して訴訟のリスクの高まることが心配されます。公平感を高めるための法改正に踏み切ろうとする時、各社が徹底して発明者を正しく認定することは全ての前提と言えます。