第1編 発明者主義原則の例外

 現行の特許法は、大正10年法以来「発明者主義」を採用してその例外を一切認めていません。発明者主義とは、発明時の特許を受ける権利を発明者に帰属させる原則をいいます(対比的に出願者主義という原則があります)。そのため、発明時に一旦発明者である社員に権利が帰属して、その権利を所属企業が承継するのですからそこに「対価」という概念が生じています。この対価の額の多寡をめぐり、昨年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二教授が日亜化学を提訴して8億円という差額(当初支払われた2万円との差額)を勝ち取ったことが有名です。この10年間に10百万円以上の差額を勝ち取った裁判例を下記の表に掲げます。

 

 










しかし、本稿の冒頭部分の表に挙げた改正提案の第一項目によれば、職務発明に限っては権利を発明時から企業に帰属させます。すなわち、社員が発明を生み出すと、一瞬たりとも社員に権利が属することなく企業が吸い上げてしまうことになります。そのために、上で述べた「対価」の概念は生じることがなくなり、社員の会社に対する立場は当然弱いものとなってしまいます。今回の改正提案は平成16年の法改正いらい主に大企業が要望してきたもので、まさにこの「対価」を請求する訴訟のリスクを低減する目的は果たされると言えそうです。

ただし、冒頭部分の表に掲げた改正提案の第二・第三項目のように、そのような社員の利益を保護するため、新たに「インセンティブ」(経済上の利益であり金銭以外のものを含む)という概念を導入して、且つそのインセンティブを決めるための手続きを示した「ガイドライン」を特許庁が策定し、各企業が職務発明規程を整備する上でこのガイドラインを遵守してもらおうとしています。この点は、第2編「職務発明規程を置かないことのリスク」においてもう少し詳しく述べることにします。

なお、上で述べたように発明者主義原則の例外が設けられることとなりますが、発明者をあくまで自然人のみとする点に変わりはありません。対比的に「法人」は発明者とはなり得ないのであって、著作権法が一部の場合に著作者を法人とするように規定していることと異なります。よって、先ず自然人のみが発明者となり得るという前提があり、その上で自然人である社員の発明について発明者主義原則の例外規定を設けることを図式化して以下に示します。


 

 















1編は以上です。以下、第2編(20152月)「職務発明規程を置かないことのリスク」に続きます。

 

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